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メディアと広告とマーケティング、そしてサービスデザイン。

「おまいらの大勝利!」となった”五輪エンブレム問題”とネットと世論について、思ったことをメモっておこう。

ついにこの方向に動きましたか。。。

東京五輪エンブレム 使用中止の方針固める(NHK) 佐野氏デザインの五輪エンブレム使用中止へ 組織委が方針固める(Yahoo!ニュース/スポニチアネックス)

実際のところ、今回の五輪エンブレムが「パクリ」なのか「似てしまった」のかは佐野研二郎の頭の中を覗いてみないとわからないので、その観点についての言及はしないけれども、このように「使用中止」となってしまったのは大きな事件だと思う*.

*disclosure: 佐野研二郎とは博報堂96年入社の同期であり、新入社員研修でも「優秀なやつだなあ」と思っていたので、深く話すほどの仲でもなかったし、何年も顔を合わせていないものの、同期としてあまり「パクリ」だとは信じたくないというバイアスもあると思うのでエンブレム自体の件についてはコメントしがたい。

さて、ながらく「ネット世論と現実の世論は別物」と言われてきたが、今回は、ネットから始まり、ネットで話題・拡散になり、今回の「使用中止」という結果となったわけで、少なとも五輪委を動かすほどの「世論」になったということは否めない。

ネット世論と「ゾウは細長い」についての話(2013/Blogos) ネット世論とリアルが乖離する理由、マニアと一般人が混在するビッグデータ(2013/Web担) ネットと現実の世論の乖離について(2010/Y!知恵袋より)

認めなければならないのは、最大級のビッグイベント関わる事項という「リアル」に「ネット世論」が大きく関わったことであり、その両者の「乖離」と言われていたものが融解してしまったこと。そして、ネットユーザーの情報収集力が高いということにある。

ただし、そこで集められた情報が真実なのかどうかは実際のところわからないし、真偽が疑わしいものもあろう。しかしながらある程度納得できてしまうような文脈をもってして、それら集められた情報が真であるものとして扱われる。これはネットだからそうなるということではなく、世論というのは本質的にそのようなものなのだと思う。

マスメディア研究や社会情報学の中でいわれるような「アナウンス効果」は、メディア側や公的機関が発表する大々的な情報に基づき、世論がある方向に傾くことを指していたが、今回のケースや安保法制に関するニュースを見る限り、それらアナウンス効果の力は弱まっており、ネット上で編まれた文脈の方が納得感をもって受け入れられるのだろう。それが「真実かどうか見極めよ」といったところで、そもそもマスメディアの流す情報が嘘で虚構だと思われている限りにおいては、ネットの方が真実”味”をもって受け入れられる。

今回の件で理解しておかなければならないのは、

  • ネットにおける人々の情報収集力はすさまじい。しかもネタ化されるときにはとてつもないパワーとなる、ということ。しかも集められた情報はある種の真実味のある”文脈”を生み出す。まさしく「集合的キュレーション」のパワー。それが本当に真実かどうかは全くもって関係ない。
  • ネットはそもそも異質な人同士が集まる場所なので、共通の認識を持っている人たちの集まりではないという認識は必要。だから自分たちのことを理解してもらおうとか、業界の論理や常識を振りかざしても徒労に終わる、ということ。しかも、相手にとってそれらを理解するインセンティブは何も働かないわけだから、理解してもらおうと努力することすら相手にとっては「上から目線」と捉えられてしまう可能性が高い(これについては、中川淳一郎のツイートをHagex-day.infoがまとめているので参考にされたし)。だから傷口を塞ごうとすればするほど、ドツボにはまる。
  • また、すでに、テレビ局側はネット情報からネタを集めてる時代になっているので、ネットで話題のものは「ネット”だけ”で話題のもの」ではなく、テレビがメガホンとなって世論化されるようになってきている。先に「メディアによるアナウンス効果は弱まっている」と書いたが、これを”一次的アナウンス効果”というのであれば、(マスメディアが主たる発信源のものは信じられずとも)マスメディアが持つ拡幅効果だけはまだ残っているとして、ネットを一次、マスメディアを二次とすると”二次的アナウンス効果”と言ったものがあるのが現状なのかもしれない。つまり今回は特に、ネットの話題をテレビが拡幅し、よりネタとして絶賛大ヒット状況にした。

といったところだろう。。。

 

と、久しぶりに考察視点でこういうのを書いたけれども、ほんと簡単にまとめてしまうと、ネットを舐めてたらあかんよね、と。中川も言ってたけど。

「ネット民」って言葉で言ってしまうと、「ネットだけに生息する特殊な人々」っていうラベルを貼ってる感じになってしまうけど、実際のところは「一般人」ととらえるべき状況に入ったかなあ、と今回の件で思います。

それゆえに、”ネット”と”現実”との間は融解していると理解しておくべきでしょうね。全マーケター、全広告人、全PR人は。

以下、関連記事追記) 佐野さんの件について思うこと(okuda print works)

関連記事追記その2) 五輪エンブレム問題 声あげない業界、陰謀論に憤り 中川淳一郎氏(withnews) photo credit: Mrs. Pankhurst in Wall St. (LOC) via photopin (license) 佐野氏のこと